何者にもならない小市民

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「彼方のアストラ」感想 

お久しぶりです。いつもこの挨拶から始まる怠惰ブログ。

 

今期アニメ(もう前期か)で一、二を争う面白さと話題の、そして一部でSF論争のネタにされている「彼方のアストラ」観ました!

astra-anime.com

いやー超面白かったですね。

 

作者はジャンプで連載していたギャグ漫画『SKET DANCE』で有名な篠原健太

SFといえども冒頭からギャグを飛ばしてくれます。

 

 

話は学生だけでミッションを抱えながら数日間のキャンプ(林間学校的な?)をしに出発!というところから始まります。『11人いる!』のオマージュですね。

petitbourgeois.hatenablog.com

キャンプ場で謎のワームホールに飲み込まれて宇宙に投げ出され、偶然近くに漂流していた無人の宇宙船に入り、これを生活の場とするというのも『11人いる!』のオマージュ。そして裏切り者がいるのもね。

 

そこからしばらくは故郷を目指して星々を回りながらサバイバルする話が続きますね。まあここらへんはやや中だるみしたかなという感じ。それでも毎話ラストに唾を飲み込むような衝撃展開を出してくるのでまったく飽きずに楽しめました。

 

9話からは全てがクライマックス。アレとかコレとかとにかく「あのときのアレはそういうことだったのか!」と納得しまくる展開でした。ウワーやられた!と気持ちの良い驚きをたくさん味わいました。

 

最後12話も1時間の尺を取り各登場人物のエピローグをきっちりやってくれたので、じっくり余韻に浸ることができました。

 

 

一方でここで紹介されている★1レビューをした方の気持ちも少しわかります。

科学もセンスオブワンダーもミステリーもサバイバルもなかった。そんなことは全部わすれろ。トラブルは発生するけれど、SFガジェットも使わず脳筋ガッツでカミカゼアタックすればなぜか解決。

 そう、確かにこのアニメはいくつかの重要な部分で都合が良すぎるのです。未知の生物を食べるにあたって四次元ポケットから出したかのごとく手作りの「可食判定機」が出てきますし、途中で立ち寄る惑星も全て宇宙服を脱いでも生きられるという奇跡のような環境です。もちろん何億もある星から条件の良い惑星を探したからこそそうなっているのですが。

まあご都合主義という感じはあります。

その都合の良い展開にも納得できるような科学的っぽい説明があるとSF感が出るんですが、そういうのはギャグと熱血で端折っています。だからこそテンポが良くて楽しいんですけどね。実際私はそれで大いに楽しんだわけですし。

多くの人の支持を得たのもそのスピード感ゆえだと思います。

 

でもまあ、SFの本当の魅力ってそうじゃないんでしょうね。

SFが面白いのは、作中のトンデモナイ世界と私たちがいるこの世界との大いなる隔たりを科学的な嘘で繋いでいるからじゃないでしょうか。

宇宙を支配する「科学」という言葉で説明されることだからこそ、読者は作中の世界に他のどのジャンルにもないようなリアリティを感じます。作中の世界は実在するのです。10000年後に、あるいは宇宙のどこかで、あるいは別の宇宙で、並行世界で、もしかしたら既にこの地球のどこかでひっそりと……

 

SFの本来の魅力をテンポの良さのために犠牲にして成功した作品だからこそ、SF好きの方は「こんなの本当のSFじゃない!」という気持ちになるのかもしれません。

 

こういう「こんなの●●の本当の魅力を表していない!」という気持ちは多分あらゆる人が1回は抱いたことがあるでしょう。

ミステリファンは「十津川警部シリーズや名探偵コナンを間違ってもミステリと思わないでくれ!」と思ってるでしょうし、寿司通は「カリフォルニアロールなんて寿司じゃない!」と思っていますし、ドイツ人は「東京ドイツ村はドイツじゃない!」と思っているでしょう。

ちなみに私は「亀甲縛りは緊縛じゃない!」と思ってます。ちゃんと手首と腕を縛って脇に閂をかけてください。その方が美しいでしょ。

 

 

ま、とにかく結論。

彼方のアストラは面白かった。これは間違いないです。一方でSFとして大事なところが抜けているというSF好きの指摘も正しいと思う。この批判を「うるさいな偏屈なSFファンは!」と思ってしまう方は、ぜひ本当にSFとして認められている作品を読んでから「うるさいな偏屈なSFファンは!」と声を大にして言って欲しい。

 

そんな感じ。

緊縛描写にこだわりのある私でした。