何者にもならない小市民

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『ラメルノエリキサ』 感想

傷は消せないし、時間は戻せない。

でも、こんな風に害された状態のまま生きていったら、私は歪んでしまう。歪んでしまった私を、私は愛せるだろうか。自分自身にすら愛されなくなるなんて、耐えられない。

私はすっきりする必要がある。 

 

ラメルノエリキサ (集英社文庫)

ラメルノエリキサ (集英社文庫)

 

 本屋で発見した小説。腕組みと不敵な笑みが印象的です。

帯に「やられたら絶対やり返す」「宮部みゆき氏絶賛!」と書かれていたのが目にとまりました。

 

女子高生の復讐少女が活躍するミステリといえば、米澤穂信小市民シリーズ

スイーツと復讐を何よりも愛する主人公、小佐内ゆきが魅力的です。

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

 
春期限定いちごタルト事件 前 (Gファンタジーコミックス)
 

 

小市民シリーズの大ファンたる私としては、『ラメルノエリキサ』の「やられたらやり返す」という帯と表紙の不敵な笑顔をみたら買わずにはいられません!

 

あらすじ

小峰りなは美しい母と普通の父の間に生まれた普通の女子高生……表面上は。

「姉は私を復讐の申し子と呼ぶわ」

それから、頭がオカシイとも。

誰かに傷つけられた時、大切なのは「すっきり」すること。そしてその一番の手段は復讐であると考えている。

飼い猫の脚を折ったガキンチョがいればその腕を折り、浮気した彼氏がいればケータイを盗んで秘密を晒しあげる。そういう生き方をしてきた。

 

6月のある日、学校帰り。

りなは背後から何者かに切りつけられる。フードをかぶっていて顔はわからない。絶対復讐してやる!と思いながらも痛みに動けないりな。

去り際に犯人が発した言葉は

ラメルノエリキサのためなんです、すみません

 

治療を終えたりなは警察が犯人を逮捕する前になんとしてもこの手で復讐を果たすと誓い、行動を開始する。

とはいえ手がかりは犯人が残した謎の言葉だけ。しかも意味がわからない。

 

そんなおり2件目、3件目の切りつけ事件が起き……

 

感想

かっこいい!

自分の生き方を決めてそれに全力を傾ける姿が痛快です。世の中の倫理感とか、生産性が無いとか、負の連鎖とか、そんなことはどうでもいい。

とにかく「すっきり」するために動く。軽い語り口とともに軽やかに行動するその姿が良いですね。

 

こう書くと「人間が書けてない」と思うかもしれませんが、そういう感触はありません。彼女だってターミネーターのように心を持たずにいるわけではないです。

自身の異常性はうすうす感じていますし、クラスメートに背中をシャーペンでつつかれただけで切りつけられた痛みを思い出し恐怖を感じます。

そういう異常性も本能的恐怖ももちろん自覚して、それでも復讐するのが私の生き方なんだ!と確信して動いていく姿に惹きつけられます。

 

最後の場面、いよいよスタンガンを持ち犯人のもとへ行く時の緊迫感もリアルに表現されています。

返り討ちの恐怖、自分が犯罪者になるかもという恐怖。そういう恐怖を持ちながらも引き返さない彼女の強さ、かっこいいですね。

 

 

ミステリの完成度としては、めちゃめちゃ高いという印象ではないです。

比較的短い(186ページ)ということもあって可能性を地道に潰すとか新しい手がかりで構図が二転三転するとかダミー手がかりとかはあまりありません。ほぼ直線的に真実へ向かってりなが進んでいきます。そういう点ではしっかりしたトリックを求める読者にはちょっと残念かもしれません。

 

しかしそういうのはデビュー作ではよくあること。

米澤穂信似鳥鶏もデビュー作のミステリとしての完成度はそれほど高くはなかったと思いますが、今や素晴らしい作品を書いていますからね!

今後の渡辺優の作品にも注目したいです。

 

そんな感じ。