何者にもならない小市民

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『屍人荘の殺人』映画・小説感想(ネタバレ有)

「取引しよう」

久しぶりのその言葉を聞いた。紫湛荘に来るきっかけとなった言葉だ。

「どんな取引です?」

「死体を移動させて。できたらちゅーしてあげる」 

 屍人荘の殺人

 

あけましておめでとうございます(激遅)。もう2月!

さて、新年最初の記事は、昨年クリスマスに観た映画についてです。今更すぎる。まあいいか。

皆さん、昨年のクリスマスイブとクリスマスは何していましたか?恋人や家族と楽しく過ごしましたか?

私はイブに『屍人荘の殺人』の小説を読み、クリスマス当日にカップルにまみれて1人でその映画を観てきました。素晴らしいクリスマスでした。本当にそう思っています。

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 『屍人荘の殺人』は「このミステリーがすごい!2018」「週刊文春ミステリーベスト10」「2018 本格ミステリ・ベスト10」「第18回本格ミステリ大賞」を受賞し国内ミステリ4冠に輝いたミステリ作品。いわゆる「館モノ」です。

そして12月13日に映画が始まりました。主演は神木隆之介浜辺美波中村倫也と超豪華。

時期的にもキャスト的にも明らかにカップルで観に行くことを想定している感じです。

 

あらすじ

 とある私立大学が舞台。ミステリ愛好会にはわずか2人しかメンバーがいない。探偵を自称する明智恭介(中村倫也)と、常識人たる主人公葉村譲(神木隆之介)。

大学内で事件が起きれば明智は鋭い閃きを発揮したり、しなかったりする。事件がなければ探偵事務所や警察に押しかけ謎を探し、猫探しのバイトを下請けしてきたりする。葉村は明智のワトソンとして振り回されつつもその日々が楽しいのであった。

大学は夏休み。明智には気になるイベントがあった。映画研究部の夏合宿である。紫湛荘というペンションを借り切って心霊映像を撮るというものらしい。

けどなあ、葉村君。ペンションだぞ、夏のペンション。そこに同年代の若者が集うわけだ。 いかにも何か事件が起こりそうじゃないか。

 特に映研に知り合いもいないというのに、何か事件が起きそうという理由だけでどうしても合宿に参加したいと駄々をこねる明智、なだめる葉村。と、剣崎比留子と名乗る女子学生が2人の前に現れる。

「――剣崎、剣崎さん」何かが引っかかったように明智さんが繰り返す。

「それで、我々に何かご用で?」

「取引しましょう」

単刀直入に、彼女はそう切り出した。

曰く、「部内のコンパを兼ねたこの合宿に脅迫状が届いたために女子部員のほとんどが参加を辞退。彼らは女性の参加者が足りなくて困っている。さて、あなたたち、私と一緒に参加しませんか?女性の私が参加するとなれば断られないはず。ただし、なぜ私があなたたちを誘ったのかは訊かないでください」

うますぎるような話だが、そういう怪しい話にこそ首をつっこむのが大好きな明智はノリノリ。というわけで明智と葉村、そして剣崎は映研の合宿に参加したのだが……

 

 

感想(ここからネタバレあり)

 

いいですか?ここからはネタバレがあります。このウキウキで神木くんカッコイイ~といってクリスマスに映画を観にいったカップルが観終わった後微妙な空気になる元凶となった重大なネタバレが。

私の大好きな、館モノです。

そりゃもう明智くんと同じくノリノリですよ。葉村くん!ペンションだぞ!ペンション!そりゃもう事件ですよ!殺人事件!

とテンション高めで読んでいましたが、この作品は普通の館モノとはちょっと違いました。館と外界とを隔離する存在として押し寄せるゾンビという存在を使っています。しかも殺人においてもゾンビの生態を利用した密室犯罪という斬新さ。死に方は明らかにゾンビに襲われている一方で、部屋に入れたのは状況的に人間だけ。こういう新しい半密室のつくりかたがあるのか!と驚きでした。

真相の方も、ゾンビの特性をしっかり頭にいれておけば確かにたどり着ける論理的な帰結で、突飛な設定を入れながらもミステリとしての完成度はしっかり高かったです。

久しぶりに楽しんで読んだミステリ小説でした。

 

余談ですけど、ミステリに超常現象や特殊設定を取り入れるのは最近よくありますね。私は『折れた竜骨』米澤穂信がいっとう好きです。中世ヨーロッパを舞台にした剣と魔法の世界。現現実に存在しないどんな世界でも、そこに矛盾のない世界のルールがある限り、論理的な推論が成り立つというわけですね。ミステリと冒険のいいとこ取りをしたような感じでとても面白かったです。

 

さて、映画版の話をします。こっちがメインだ。

この映画は「ネタバレ厳禁!」と謳ってゾンビが登場することを想像させないような予告編を流していました。

それに騙されたクリスマスのカップルたちは浜辺美波神木隆之介中村倫也が甘酸っぱくラブラブイチャイチャしながら謎を解くことを期待して映画館に足を運び、見終わった後には自分たちがイチャイチャすることを目論んでいたわけです。

まあ浜辺美波神木隆之介がイチャイチャしながら謎を解くのは間違ってなかったわけですが、それ以外は全く彼らの期待通りの映画ではなかったでしょう。

明らかに安っぽい演技のゾンビが登場し(まあ安っぽくないゾンビ映画を私は観たことがないですが)、主人公達がグロテスクにもゾンビたちの脳天をかち割っていくわけです。この時点でカップルのムードにひびが入っていきます。私の周囲のカップルがグロシーンをみながら「(うぁーー)」と静かにうめき声を上げているのが聞こえてきていました。

しかも中村倫也がすぐ死ぬ。原作未読の人には驚きでしたでしょうが、明智くんは主人公っぽい名前ながらただのチョイ役なのです。ここで中村倫也目当てだった女性のテンションがぐぐっと下がっていくのを映画館内で感じました。

中盤にかけてようやく彼ら彼女ら期待通りのイチャイチャ推理タイムが来ます。ここにはカップル達もご満悦。原作と違って結構ギャグシーンにも力を入れていて、ミステリファンだけでなく一般ファンにも気楽にミステリ映画を楽しんで欲しいという制作側の苦心と工夫を感じることが出来ました。

そして最後。一連の殺人のトリックと犯人が解き明かされます。いや動機が重い!原作通りに重い!妊娠とか中絶とかが動機になってしまったらこれからセックスに励もうとしていたカップルどうすんのこれ!ミステリファンからすればそういう動機もミステリのピースのひとつとして捉えられますけど、クリスマスイチャイチャセックスの前座として観る映画としては最悪なのでは?原作と一部のキャラクターが改変されていたこともあって動機も改変されるのではと思っていましたがここは原作通りなんかーいと脳内ツッコミを入れていました。

 

映画版の感想を総じていうと、ミステリ好きの原作ファンにもある程度納得してもらいつつ俳優ファンにも気軽に楽しんで欲しいという制作者の意図をつよく感じる構成でした。ただまあ、俳優ファンには結構不満があるかもしれません。特に中村倫也ファンは相当がっかりしたでしょう。ま、原作読んでから観に行った私はわりと満足しました。

 

そんな感じ。続編も文庫になったら読みたいです。

 

今回は感想というか映画館カップル観察記みたいに若干なってしまいましたね。それもまたよろし。