何者にもならない小市民

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十二国記『白銀の墟 玄の月』 感想(ネタバレ有)と考察

ついに発売されましたね!なんと18年ぶりの新刊。

まあ私が十二国記シリーズを読み始めたのはほんの2年前ぐらいなので大して待っていないのですが、以前からのファンの方にとってはまさに「待望」ですよね。

発売当日は台風19号のため最寄りの書店が休業していたので買えず。日曜購入してその日に1巻を、そして翌日2巻を読み終えました。

以下ちょっとした感想と考察(展開予想)です。

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白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)

 

 

 感想

久しぶりの十二国記の世界をじっくり堪能しました。厳しい寒さや荒廃した街、飢えて疲弊した人々の描写は相変わらず真に迫っていて良かったです。言葉遣いはめちゃくちゃ難しいのに荒れ果てた国のビジュアルイメージは簡単にくっきりと湧いてきます。著者の小野主上の魔法ですね。

 

それにしても謎の多い1・2巻でした。泰麒の真意も阿選の真意もわからないまま、そして本当に驍宗が死んだのかも怪しいまま。

 

心情描写があるのがほぼ李斎と項梁だけなので読者としては李斎に寄り添って読んでいくしかないわけですが、とにかく話が進まないし全体像が見えてこない。進んだかと思うと空振りだったり、同じ話題を別の場所で違う人物たちがしているだけだったりしてじりじりした気持ちになります。読者が李斎と同じ焦燥感と緊張感と疲労を味わうようにうまく、そして意地悪く設計されているように感じました。

見えてきたもの以上に謎の方が増えていくので、とにかく「この国はどうなっているんだろう……?」という不安な気持ちでいっぱいになります。

 

私の中で特に驚きなのが泰麒の言動です。何か一計があって突然の別行動をしたのだろうと97.5%ぐらい信じてるのですが、あと2.5%ぐらい、本当に天意を反映するだけの器として動いているんじゃないかと疑ってしまう気持ちもあります。

たぶん李斎も同じ気持ちでしょう。

メタ的にいうと、小野不由美先生が登場人物に馬鹿な行動や無惨な死に方をさせるわけがない!と信じる一方で、もしかしたら、本当に一握りの可能性だけれども小野不由美先生なら本当に重要な人物をあっさり物語から退場させていくこともあり得るという考えがよぎるのです。

 

これに関してはどれだけ考えても答えが出るものではないので3・4巻の発売を心待ちにするしかないですね。ああ、早く読みたい!

個人的には、李斎が報われる展開になってほしいなーと思います。彼女の視点で読み進めていくうちにどんどん感情移入してきたというのもありますし、日陰者には日陰者の言い分と生き方と物語があると知った彼女にぜひ新しい国を建て直して欲しいと応援したい気持ちがあるからです。

 

そんな感じ。

 

考察、というか今後の展開予想

 

★驍宗は死んだのか

メタ的に考えればおそらく死んでないでしょう……?これだけ状況証拠だけ積み重なっていくのは怪しすぎる。最期の言葉が「せめて台輔を」なのも気になります。驍宗なら蒿里と呼ぶような気もするのですが、それじゃ他人に伝わらないのであれば台輔と呼ぶのが自然な気もする……

白髪に紅眼の武将が死んだというのは、影武者でしょうか。とはいえ、髪の色は細工できるとしても眼の色は普通変えられない。紅い眼の他人をとっさに用意できるとは思えないのでうーんという感じ。ただ、この世界には人の姿に化けられる妖魔がたしかいましたよね?あと、泰麒の持つ傲濫も人に化けられます。まあ傲濫が化けているということはないでしょうけれど、他の麒麟が使令を遣わして影武者にしたという可能性はギリギリ無くもないのかなという気がします。

 

あと、看病していた少年の話の部分ですが、これは叙述トリック、というか違う時代の話という可能性もあるかなーと思います。何の根拠も無いですが。

★人が「病む」原因

意味深な描写からして鳩が何らかの影響を与えているのは間違いない感じがしますよね。問題は鳩の正体ですが、これは簡単。妖魔です。なぜなら公式の3巻のあらすじでこう書かれているので。

そして、李斎の許を離れた泰麒(たいき)は、妖魔によって病んだ傀儡(くぐつ)が徘徊する王宮で、王を追い遣った真意を阿選(あせん)に迫る。

妖魔が自然発生したものか、何らかの意図で誰かが差し向けたものかというのは謎ですね。

私の予想では、陽子を抹殺しようとした先代王のようにどこかの王が麒麟に使令を使わせたのではないかと思っています。あるとしたら柳国かなあ。消去法で……

まあこの予想が当たるとは思ってないですけど、当たり障りの無いことを書いてもつまらないので。

 

★阿選が反乱・国政放置した理由

 「天のシステムの不備を突いてみて天の反応を見たい」あるいは「天の意図に反して国を滅ぼしてみたい」「天意を反映させずに民意によって選ばれた施政者を出してみたい」という理由じゃないかと思っています。

 琅燦が天のシステムについて意味深な言及をしていたり、他にも尚隆などがこの世界のシステムは融通が利かないうえに穴がある、あるいは不合理な仕組みなのではないかというような疑問を呈しています。柳国の王もこのシステムによって国が荒れる時期がありむしろ民にとって不幸ではないかみたいなことを指摘していたと思います(たしか)。

 

麒麟を介して民の苦しみを反映させ、麒麟の死を持って民を苦しめる王を交代させる。そして新しい麒麟に天意を反映させ新王を決めるというのがこの世界の仕組みです(ものすごく大雑把に言うと)。

なぜこの仕組みがあるのか。それは民が平穏に暮らせるようにするため。いやでも、民のことは民が決める方があるいみ健全じゃない?

 

では麒麟麒麟たる所以である角を切るとどうなるのか?麒麟に天意が伝わらなくなるのか?それとも民意が伝わらなくなる(失道しなくなる)のか?

麒麟も死なず王も死なず、仮王も民を救わず、そして天意も介入できず、というバグを起こしたら果たして天はどうするのか?何もできないのか?これが「天の反応が見てみたい」です。琅燦はこれをやろうとしているようにも見えます。

 

民が全て死に、やがて仙籍にいる者も全て飢え死に、国から誰もいなくなるまで何も天がしないままなのか?そして国がなくなるのか?まあそれはそれで面白い。というのが「滅ぼしてみたい」と書いた意味です。尚隆はいつかこれをやってみたいでしょうね。

 

さて、民が全て死ぬまえにおそらくやがて民のなかから国全体を何とかしようリーダーが出てきます。何度か失敗が繰り返されるでしょうか、やがて遂に出るでしょう。天意ではなく本当に民によって選ばれたリーダーが。

そして、天の支配を抜け出した民主国家ができるかもしれません。阿選が、あるいは彼を操る黒幕が目指しているのはそこらへんなのかな、そのために天を介入させないまま民が自力で何かをするのを待っているのかな、と妄想しています。

 

 

ああ、なんだか柄にもなく長くてとりとめの無い妄想を書いてしまいました。

とにかく普段1000文字の感想を書くことにすら苦労する私がこんなに想像をふくらませてしまうぐらい面白いです。

ほんとにほんとに、早く続きが読みたいですね。

 

そんな感じ。