何者にもならない小市民

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『日曜は憧れの国』 感想

やがて四ツ谷駅前に到着する。駅のすぐ傍に建つこぎれいなビルが四谷文化センターだった。

入り口には「憧れの国へようこそ。あなたの憧れが未来への原動力です」とある。

憧れか。ではわたしみたいに対した憧れもない人間は未来に進めないのだろうか。 

 

日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

 

 

ミステリです。日常の謎ってやつですね。

 

いつものようにタイトルに惹きつけられて買った作品。

「憧れの国」ってなんだか楽しいフレーズです。平日の規則的な生活から抜け出して、日曜日に憧れの国という非日常がある。なんだかワクワクします。

 

ちなみに円居挽の名前は以前からよく知っていましたが読むのは初めてです。

 

 

あらすじ

引っ込み思案の事なかれ主義を自覚している中学二年の千鶴は母親に「何か特技ぐらいないと恥ずかしいでしょ?」と半ば強制的にカルチャーセンターに通わされ色々な講座を受けることに。

 

まずは母が勝手に申し込んだ料理教室へ。そこで3人の中学生と一緒の班を組まされます。

子犬のように純真で活発な、現金でお調子者な真紀、真面目で大人びた美少女の公子

 

学校も性格もバラバラな4人はいきなり仲良く!とはなりません。でも様々な講座で不思議な事件が起き、4人が協力して謎を解くたびに少しずつ互いの価値観がわかってきたり、自分の悩みと向き合っていくことができるようになっていきます。

そんなお話。

 

 

感想

中学生。そろそろ自分の価値観とか生き方とかが決まってきます。そして残念ながら自分が何を「持っていない」のかもわかってきます。

 

どうやって「持つ」か、持たないまま何かで補うのか、あるいは持たない自分を肯定するのか。持っていないなりに真剣に考え、少しずつ新しい生き方を模索していく4人の成長を見守りたくなる作品です。

 

私自身の性格は千鶴にかなり近いので千鶴視点の話にかなり共感しました。とにかくリスクを回避する生き方、自分でもうんざりなんですが変えられるとは思いません。

というか、本当は変えたいと思ってないんですよね。決断良く新しい世界に飛び込んでいく人に凄いなあなんて言いつつ本当は馬鹿にしているんです。私が中学生の頃そんなことを自覚していませんでしたけど。

最近はもうそれはそれでいいやと思えるようになってきた……かな?

 

 

まあとにかく、同じ方向を向いているわけではなくとも少しずつお互いにわかりあえてくる4人の関係性が心地良いです。

4人ともキャラが特徴的で読みやすいですし、それぞれの抱えるコンプレックスも共感するところが多いので結構納得して読めると思います。

各話の謎も結構工夫されていてミステリとしても充分。

 

 

2巻

2巻は副題として「その絆は対角線」とあります。

その名の通り、2巻でフォーカスするのはいつもと違うペアの関係性です。

 

この4人、もちろん友達どうしなのですがみんなに対して同じ親密度というわけではありません。やっぱり価値観の違いはあるし、自分の価値観を簡単に他人に合わせることはできませんからね。

1巻では真面目でじっくり考える千鶴と公子、陽気で行動力のある真紀と桃がペアになって推理を組み立てる話がいくつかありました。実際このペアは性格が近いので特に仲が良さそうです。

 

しかし2巻では千鶴と真紀、公子と桃が行動を共にします。

このペアはとにかく価値観が合いません。特に千鶴と真紀は正反対です。千鶴は真紀の軽率な立ち回りが気にくわないし、真紀は千鶴の優等生ぶって自分だけリスクを避ける立ち回りにイライラを隠せません。(真紀が千鶴に向ける言葉が私に刺さってきてつらい)

 

でも実際に一緒に2人だけで行動していくうちに、相手がなぜそういう行動をするのか、どんな価値観で動いているのかがわかってきます。実は自分と似たような悩みを持っていて、それを乗り越えようとしていたんですね。

それがわかると、相手の行動は「不愉快なもの」から「参考になるもの」に変わります。そして固まりかけている自分の価値観と行動の改善を考えるきっかけがもたらされます。

そうやって2人は合わないながらもリスペクトしあう関係にかわっていきます。

 

 

いろいろな価値観を認め、そして自分の価値観はどんなものなのか、なぜそれを選んでいるのか、本当にそれでいいのか、どうすれば自分自身が変われるかを深く考えるようになる4人の成長が微笑ましいですね。

1巻とは対照的に自分が「持っている」ものに気づかされるのも工夫されたところだと思います。

 

 

自分が持っていないものばかりに目が行ってしまう方、ぜひ読んでみてください。

そんな感じ。

 

 

 

なんか今回感想が箇条書きみたいになってますよね……なんでだろう。まあ、いつもか……