『私の家では何も起こらない』 感想
ここは私の家だ。私の住む、とても居心地のいい私の家。私の住む家では、そんな不吉なことは何も起こらない。
ホラー小説に手を出してみたいお年頃です。「お年頃」とかいう甘ったるい言葉を使うような年齢でもないですが。
ホラーって何から手を出せばいいかわからないんですよね。そもそもホラーって言ってもサイコキラーか幽霊か、グロか怪異か、ワッとくるものかゾワゾワくるものかとか色々ありますし。
私の好みとしては怪異とかゾワゾワとか、そういうのが好きみたいです。綾辻行人とか、ゲームだと「零」シリーズ。月蝕の仮面が好き。
「私の家では何も起こらない」この言葉だけでちょっとゾクゾクしますよね。この短い言葉で「何かが起きる」ことと「この言葉を発した人間の感覚が普通ではない」という2つのことがわかります。もうこの時点でまさに私の求めるホラーという感じ。
まあそういうわけでこの本を買いました。
恩田陸の他の作品では『六番目の小夜子』は昔読んで面白かったですし、きっとこの本もハズレではないでしょう。
あらすじ
丘の上にひっそりと建つ素朴でちんまりした家がこの話の舞台。その家の中で起きたことが短編形式で描かれます。
パイを焼いている途中に殺し合いはじめた姉妹、連続殺人鬼の美少年、人肉を主人にふるまう家政婦……家に刻まれた記憶と痕跡が妖しい魅力となり、あるいは金銭的価値となり新たな住人を引き寄せ、そしてまた何かが……
という感じ。
感想
まさに、まさに私好みなホラーでした。
語り手の優雅な口調にそこはかとなく感じられる狂気、現実に何かが侵食してくる恐怖、話が進むにつれてみえてくるおぞましい全容、破綻する世界、繰り返す惨劇、絶望……
怪異ホラーの醍醐味をコンパクトにまとめあげた濃密な作品だと思います。
個人的には姉妹の話が特に好き。のどかに厨房でパイを焼き、ジャガイモをむきながら談笑するといった日常の柔らかい風景に一滴ずつ混じっていく異変。これぞホラーの魅力ですよね。
夜に読むよりむしろ昼とか夕方に読んだ方が怖いかもしれません。明るい所ほど、ちょっとした影が目立つものですから。
家の穏やかな風景を柔らかく表現しているのも素敵なポイントです。窓からの眺め、中庭の風景、庭の形、厨房にあふれる生活感と活力。まさに絵本に出てくるような明るくふわりとした家の様子が良いアクセントとなって怖さを引き立たせていると思います。
ホラー初心者ながら注文がうるさい私の眼鏡にかなう作品でした。「零」シリーズとかが好きな人には楽しめるのではないでしょうか。
そんな感じ。