『藤子・F・不二雄少年SF短編集』 1巻・2巻 感想
未来は、それがあるというだけですばらしいことなんだ
藤子・F・不二雄少年SF短編集 (1) (小学館コロコロ文庫)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1996/04/01
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藤子・F・不二雄少年SF短編集 (2) (小学館コロコロ文庫)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1996/04/01
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1巻収録作
「ひとりぼっちの宇宙戦争」
「コマーさる」
「なくな!ゆうれい」
「未来ドロボウ」
「四畳半SL旅行」
「恋人製造法」
「ニューイヤー星調査行」
「宇宙船製造法」
2巻収録作
「ポストの中の明日」
「おれ、夕子」
「流血鬼」
「ふたりぼっち」
「宇宙からのおとし玉」
「アン子 大いに怒る」
「絶滅の島」
「山寺グラフィティ」
「世界名作童話」
藤子F不二雄といえば「ドラえもん」があまりにも有名ですが、短編SFもまた数多く傑作を描いています。これはその中でも少年が主人公の短編SFを収録した本ですね。
少年というのは便利なキャラクターです。無邪気に未知との遭遇を受け入れる心があり、終末世界を生き延びたいという意思があり、無謀に挑む勇気があり、技術に惑わされずに純粋にものを見つめる思考力があり、一方で現実世界の閉塞感も読者と共有できるほどには世間を知っています。要するに少年とSFは相性が良いんだと思います。
よって少年SFは名作。証明終了です。
私の中では藤子F不二雄はかなりブラックユーモアを好むという印象があります。「ドラえもん」でも結構皮肉の効いたエピソードやブラックな一面をみせることがあるので、「ドラえもん」という小学生向けの枠から飛び出したSFはさぞブラック成文たっぷりだろうと覚悟して読んだのですが、思ったよりは希望のある話が多くてホッとしました。もちろん怖い話もたくさんあるわけですが。
各短編の感想を書くとネタバレになってしまうので、一番印象に残った一編だけ紹介します。もちろんそれ以外の話も全部素晴らしいことを保証しますよ。ハズレなんて1つもありませんのでぜひ読んでほしいと思います。
1巻で特に良かったのは「未来ドロボウ」
成績は悪いけれど将来のために熱心に勉強していた主人公は、ある日、親の工場が倒産したので進学を断念しろと迫られます。やけっぱちになった彼は近所の怪しげなお屋敷に入り込み、その老主人と話すことに。
お爺さんの言うことはこうです。
「私は必死に勉強して地位と名誉と財産を得たが、代わりに何か貴重なものを落としてきた……君の若さと豊かな未来がうらやましいよ……」
一方主人公は「高校も行けない未来なんて豊かなもんか!」と我が身を嘆きます。
そこでお爺さんは「入れ替わり」を提案してきます。気軽に応じた主人公ですが……
若い日々の1日1日を大切に生きるべしということを痛感する短編でした。
私は一応若い部類に入る人間ですが、数十年後にこの毎日を惜しまないと胸を張って言えるかどうか……もう少し精力的に生きていきたいですね。
2巻で良かったのはなんと言っても「流血鬼」。かなり有名な短編で名前を知っている方も多いと思います。
感染すると吸血鬼のようになってしまう奇病が発見されたと雑誌に載り、怖いねー、いやいや迷信でしょー、なんて話題になっている間に瞬く間に世界中で感染が拡大してしまった世界。主人公の家族や友人達も感染し、仲間を増やすために主人公に噛みつこうと襲いかかってきます。主人公と親友の2人は小学生の頃に使っていた秘密基地に隠れ、杭と十字架を手にできる限りのレジスタンス活動を実行しますが、ついに親友は捕まってしまう。主人公は命からがら秘密基地に逃げ帰るが、そこには吸血鬼と化したガールフレンドが待っていた……
このシーンの迫力は凄いです。ドラえもんと同じ絵柄でこんなにゾッとするなんて思いもしなかった。
やばいぞ主人公!どうやって切り抜けるんだ!?と思いながら読み進めていたところに今度は思いもしなかった指摘が来る。
吸血鬼の支配する世界になってはじめて気づくこと。いったい吸血鬼と人は何が違うのか、何が正義で何が非道なのかを一瞬も考えないまま人間の正義を実行してきた主人公(と読者)はここで立ち止まさせられます。そして最後……
という感じです。
名作ぞろいの本でした。
こういうの小学生の頃に読んでおきたかったなーとか思いましたが、たぶん小学生にはトラウマを植え付けるのでやっぱり読んだのが今でよかったかも。
まあとりあえず「流血鬼」だけは読むべきです!2巻に収録!
そんな感じ。