何者にもならない小市民

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連城三紀彦レジェンド2 感想

でも何一つ変わらなかった

 

 

 

連城三紀彦 レジェンド2』 連城三紀彦

 

※ネタバレあります

 

前巻に続いて買って参りました。

前巻の『連城三紀彦レジェンド』を読むまでは連城三紀彦という作家の名前は知っていたものの読んだことはありませんでした。まあなんか有名な作家らしいぐらいな感じでしたね。

連城三紀彦レジェンド』を買ったきっかけはタイトルと編者の名前に惹かれたことです。綾辻行人米澤穂信といった超有名作家が選び抜いた、しかもレジェンドと堂々と名を冠する短編集ですからこりゃ買って損はないだろうということで即決。

読んでみたところレジェンドの名に恥じない素晴らしい短編集だと感じました。特に「桔梗の宿」が好み。場末の遊郭の退廃的な空気感が良い感じ。

 

前巻の話はまあどうでもいいのでこの2巻の方に話を移します。

 

収録作は以下の6編。

「ぼくを見つけて」

「菊の塵」

「ゴースト・トレイン」

「百蘭」

「他人たち」

「夜の自画像」

 

以下、各短編に短い感想を。

 

ぼくを見つけて

「ぼく、今、ユーカイされているみたいなので電話しました」というなんとも緊迫感のない通報の電話から始まる事件。ほんのわずかな手がかりから家族の真実に近づいていく描写にどきどきします。途中で普通に犯人がわかりますし、連城特有の一気に話がひっくりかえるという感じではありません。でもふと一気に推理の出口がみえてくるのは気持ちがいいです。

 

ここで唐突な雑感。話の本筋とは何の関係もありません。

自分を育ててきた親が本当の血の繋がった親ではないと知ったとき、子供はそんなに急に今まで親と信じてきた大人に対する愛情を捨てて本当の親を求めるものなんでしょうか?

そういう経験がないので(あってたまるか)どうにも心情を想像できないんですが、子供にとって「血のつながり」の意味なんておそらくわかりませんし、「何年も愛情を持って育てられた」という事実の方が心の中で大きいウェイトを占めそうな気がするので「本当の親」に執着しないんじゃないかと思うんですよね。うーん私が子供の感性を舐めすぎなんでしょうか。

『八日目の蝉』とかではどういう風に子供の心情が描かれているんでしょうか。まああれはたしか子が大学生だから状況が違うかしら。こんど読もうかな。

雑感おわり。

 

菊の塵

時代は明治42年。身体不自由な軍人田桐重太郎が自宅で軍刀を喉に刺して自害したのを妻のセツが発見し、通りかかった主人公とともに交番へ連絡するところから話は始まる。

時代の奔流に飲み込まれながらも芯を失わずに生きるセツの姿が格好いい。そして重太郎が遺した辞世の句の意味が最後の最後でひっくり返るのが見事。明治という時代設定だからこそできた構図の反転が素晴らしい。この短編集の中で私が一番好きな話です。

 

ゴースト・トレイン

赤川次郎とのコラボで、赤川の「幽霊列車」をモチーフにして書かれた作品らしいです。列車に轢かれそうになったのになぜか死ななかったという過去の不思議な体験を解き明かす話。

主人公のおじさんの未練がましい生き方が自分と重なってつらい。私は20代にしてすでに学生時代を懐かしんでしまうんですねえ。あのときこうなっていれば……とか何度も夢想して時間を浪費することが多い。何度も夢想しているうちに本当に自分の記憶が書き換わっていきそうで怖いので最近なるべく考えないようにしています。

 

百蘭

時代は戦後すぐ。関西弁のおっちゃんの独白で語られる人気漫才コンビの2人の秘密の話。

最後の一言で一気に構図が逆転。一番びっくりした作品。びっくりしすぎて感想が書けない。ええええー!みたいな。思わずもう一回読み返して、はあああーーってなった。感想になってないですね。

運命的に出会って、バッと花開いて(というより無理矢理ぐいっと開かせて)、いきなり枯れていく2人の芸人人生がもの悲しい。まあそれでも一瞬でも咲いただけ芸人としては幸せなのかな。最後の「花の名、思い出せへん……」がつらすぎる。

 

他人たち

家族といいながら希薄すぎて家族とも呼べないような関係をいっそばらばらにしてしまおうという少女の計画の一部始終。

宮部みゆきの『理由』を思い出しました。まあ映画でしか観てないんですが。

なんか時代を感じますね、「物質的に豊かになりすぎて家族の絆が失われる時代!」みたいなメッセージ性のある話は。いかにもバブル期って感じです。ありあまるお金の使い方に戸惑っていた時代。ある意味うらやましい。はい、話と何の関係もない雑感でした。

 

夜の自画像

語り手の父である画商と、彼が発掘した天才画家、波島の間の事件。どちらが刺してどちらが死んだのか、犯行直後の火事で被害者がどちらかわからなくなった事件の真相を語り手が考えていく。

鏡と利き手をキーワードに何度も構図が反転する凄すぎる作品。『連城三紀彦レジェンド2』のトリにふさわしい濃い作品でした。

 

 

連城三紀彦特有の綺麗な構図の反転を何度も楽しめた短編集でした。「夜の自画像」は特に凄いですね。

それから連城作品は空気感の質が高いですよね。明治なら明治の、戦後なら戦後の匂いや雰囲気がリアルに伝わってきそうな描写が本当に素晴らしい。ミステリ作家は謎だけじゃなくてそういう空気感でも読者を楽しませてこそ超一流だと思います。

 

 

『レジェンド3』が出たらまた買いたいです。