何者にもならない小市民

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『煙の殺意』感想

闇の夜は吉原ばかり月夜哉

 

 

『煙の殺意』 泡坂妻夫

 

煙の殺意 (創元推理文庫)

煙の殺意 (創元推理文庫)

 

 

 

米澤穂信が帯を書いたと言うことで、まあ読んで損はないだろうと思って買ってきました。『湖底のまつり』『11枚のとらんぷ』も結構面白かったですし。最近どこの本屋でも泡坂妻夫の本がプッシュされていますね。

 

本作は『湖底のまつり』とは違い8編の短編からなる短編集です。それぞれ簡単にあらすじと感想を書きます。

 

 

 

「赤の追想」

加那子に飲みに呼び出された桐男。どうやら彼女は失恋したらしい。その失恋話の顛末を聞いているうちに桐男は加奈子を振った男、吉島航一の本心に桐男は気づきます。

 

恋愛をテーマにした作品は泡坂妻夫の得意分野といったところなんでしょうか。加奈子と航一の運命的な出会いは『湖底のまつり』の状況とよく似ています。扇情的な昭和を感じます。

 

「椛山訪雪図」

絵画蒐集家、別腸が語る名絵画「椛山訪雪図」の秘密。そして家に賊が入り椛山訪雪図が盗まれた時の不思議なエピソード。

 

絵の描写がとても綺麗でイメージしやすい。そして最後に明かされる絵に隠された工夫がなんとも鮮やか。

本記事冒頭の一句はここで登場します

 

 

「紳士の園」

季節は春。刑務所から出所したばかりの島津と近衛は近くの公園でこっそり池の白鳥を捕まえて鍋にして食べながら夜桜を楽しむ。鍋を楽しんだ2人でしたが、公園の小さな異常がいくつもあることに気づきます。

 

前科者ながら口調も仕草も紳士的な近衛の語り口が面白い。やましいところがある2人ゆえに小さな異常をすべて見なかったふりをせざるを得ないというところがユニーク。

 

 

「閏の花嫁」

小さな島国の王子と結婚してあっというまに旅立ってしまった鞠子と親友の加奈江の文通形式で進む。土地の立派な祭礼に合わせて結婚式を挙げるらしいが……

 

まあわりと真相に気づきやすい作品。でも現実でこれやるのは無理でしょ。

 

 

「煙の殺意」

史上最悪の被害を出した高級デパートでの大火事のニュースに気を取られる望月警部。そこに殺人をしたという男が自首してきて、望月はいやいや現場に向かう。2つの事件には奇妙な繋がりが……

 

これも比較的わかりやすい話ではあると思う。

 

「狐の面」

松吉の妻、きぬは狐憑きに悩まされるということで、寺の住職が診にいくことに。観察眼鋭い和尚はある企みに気づきます。

 

手品に造詣の深い泡坂妻夫らしいミステリ。手品は使い方次第ではイカサマにもなれば人助けにもなるというところに作者の意図があるのだろうか。

 

 

「歯と銅」

法医学部の学生の「私」は教授の妻、安子と不倫関係になるものの、どうやら教授が探偵を雇って調査しているらしい。「私」は邪魔者を消すことに。証拠隠滅は完璧に行われた……

 

ミステリというよりは隠蔽工作の緊迫感のある描写を楽しむという感じでしょうか。

 

 

「開橋式次第」

まちに架かる橋の開橋式に呼ばれた一郎一家。そこで15年前に迷宮入りしたバラバラ殺人事件と同じ状況が再現されているのを発見してしまう。

 

ドタバタ感にあふれる文章の中にしっかり伏線が張られているのが素晴らしい。

 

 

どの短編も語り部の口調のテンポが良く読みやすいですね。短編のミステリというのはたいてい伏線の張り方に苦労している感じがみえてしまうものですが、泡坂妻夫はさすが、うまく伏線をはっていますね。

 

(まあでもやっぱり長編の方が面白いかな。)

 

 

 

5.5/10